バブ

 ジャクソンズ/ジャクソン5期からマイケル・ジャクソンを聞き返しててそうそう・・と思ったんだけどさあ、私が個人的に赤ちゃん声*1って呼んでるやつ(ピッチを極端に上げたヴォーカル処理)、あれがいい、気持ちいい、という共有感覚が成立したのって音楽史的にどこらへんからなんですか??? ある時期から私も気にしだして。ものすごく当然のように広まってる。
 とりあえず私の挙げられる例で時代的に一番早いのが1982年のマイケルの"P.Y.T. (Pretty Young Thing)"だった訳よ*2。この段階ですでに使い方的にかなりこなれておるわ、てのが先行例の多さを推測させる所以。ELOの"Mr. Blue Sky"あるいは"Steppin' Out"、クラフトワークの"Abzug"のようなヴォコーダー歌唱に関してはポップス史でもちろんあってきたけど、そこから赤ちゃん声のよさの発見には飛躍があると思うんだわ・・・。

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 ↑の3分15秒からでてきます。単に短いSEとかエフェクトでやってるんじゃなく確実に節回しという単位でリードをとれるものとして提示されてるのがポイント。


 ほかには、


Skrillex "With You, Friends (Long Drive)"(2010)
https://www.youtube.com/watch?v=fq-geJ9UwG4
 赤ちゃん声だけでなくいろんなピッチ変調で遊んでるんで純粋な例とかではないと思うが(それらをさらにオートチューンかけてる)。


・FLOW "United Sparrows"(2021)
https://www.youtube.com/watch?v=Vy9cRFN1DtI
 有線で公共の場に流れてくるような歌における赤ちゃん声。あとNiziUにもそれっぽい使い方してるように聞こえるのはあった。


tofubeats "STAKEHOLDER"(2015)
https://www.youtube.com/watch?v=3KRwRVMrWVU
 これくらいになると人間の声のピッチ変更なのか、そういうシンセのプラグインでやってるのか判らんので保留しときますけど。使い方とかその音響上の効果意識という点で赤ちゃん声の延長線上にあるなと。


 明らかにクラブミュージック方面で死ぬほど使い回しされて今聴ける文法になってきたんだろうなというのは判るけどマイケルの事例からしてもっとさかのぼれて、しかもほぼ完成形みたいなやつもあるんだろうなあ・・・と気にしてるところ。



追記(4/30)

Madonna "Impressive Instant"(2000)
https://www.youtube.com/watch?v=bqw5Ki3XvUc
 「MUSIC」アルバムから。姿勢落として進むクールなエレクトロにマッチしたピッチシフトボイス(オートチューンとカットアップの併用でそう聞こえるだけかも?)。もともと私の関心が、R&B、ソウル、クラブ入ってる歌もので赤ちゃん声のピッチシフトが来ると単にメロウなだけでない、いじった・改変的なドリーミーさがでて、それにフックされてた訳ですけどマドンナのこの曲はもっとスムーズなアレンジ。ちゃんと追って聴いてくとマドンナ、プリンス、マイケル・ジャクソンの御三家はほんと手強いですね。それは資本主義が手強いということでもあるけど。


Steve Vai "Little Green Men"(1984
https://www.youtube.com/watch?v=L-Sv5bAKS4s
 シロフォンヴィブラフォンも巻きこんで赤ちゃん声がうにゃうにゃ・・・はい名曲。ヴァイ自身のキャリアから見てもこのデビューアルバムの音楽性は異例で、ミニマル~現代音楽から「奇想の楽しさ」「マジカルなポリリズム感覚」といった要素を身体の快楽として回収してきて、それをザッパ由来のアンサンブルに接続したという感じ。


・Burial "Endorphin"(2007)
https://www.youtube.com/watch?v=EtVjv-1vJYo
 ある程度長いタイムスパンで持続する節回しを対象に声を変調操作しているもの。ぐらっと伸びていく音価とピッチシフトが合わさると余計亡霊性が強まるのかも知れない。声の人格を乗り継いでいくというか・・・。まあBurialはアルバム単位でそうなのでこの曲だけ取り上げるのは赤ちゃん声に近いのが聞けるから、という理由以外ではないのだけど。UKガラージひとつにかぎっても膨大なピッチシフト観の入れ替わり、展開、蓄積があるんだろうなと思う。


・yuichi NAGAO「Phantasmagoria」(2015)
https://www.youtube.com/watch?v=1Jor5Bdd5Ok
 アルバム収録曲のティザー動画。初音ミクがここでは歌パートを担っている。ミクさんの声のピッチ上げまくって赤ちゃん声にする方向もあったなと聞き返してて思った次第。"Merry-Go-Round"とかそうだけど、ブレイクコア文脈の切り替えの激しい声ドラム()の流れでの赤ちゃん声ってか、そっちはそっちでまたある訳ですが。


・Pitch Shifting in Music: From Chipmunks to Kanye
https://www.allarts.org/programs/sound-field/is-jay-z-actually-nicki-minaj-pitch-shifting-in-music-hvnkfp/
 これはピッチシフトを使用した音楽の簡単なまとめ・紹介動画。赤ちゃん声にかぎらずより広範な事例についてで、ビートルズからカニエ・ウェストまで。と言ってもビートルズの時期は今みたいに専用のピッチシフトソフトなんてないので、レコーディング時に速度を変えて録音するとかテープ操作とかで声の高さを工夫して変えてた訳で、そういう手法を現代のデジタルツールとしてのピッチシフトの枠で語ろうとすると話が変になったりはするかも知れない。まあピッチシフト全般に話が行くとさすがにとりとめないので、調査はほどほどにしておきますが・・・。とはいえ動画で紹介されているアルビンとチップマンクス(1958)のようなノベルティソング、今で言うとキャラクターソング=「制作」されたキャラクターの声の存在は大切な視点ではある。

*1:はじめてのチュウ声でも可。

*2:昨今のシティポップ文脈のおかげでおそろしく親しみの持てる名曲に変化したというか、サビの構成なんかtofubeatsそのままだと思います。82年時点の豆腐。