六郎太

教材のあとで

どうしても月のにおいの付け焼き刃 (笹川諒「生徒会書記」、『ぱんたれい』vol.2、2020年) 取り急ぎ、私がそうだからだ。だがまた、私はそうでありえない。初めに言ったことと、次に言ったことは違うものを相手にしている。くちゃくちゃにかいても誰かには…

掛け算

ドラゴンとゴンドラに目が二つずつ (樋口由紀子編『筒井祥文川柳句集 座る祥文・立つ祥文』、2019年) ひとはなにを語りたくて作品を取り上げるのだろうか。だが作品を取り上げてなにかをかいていくなかで、自分の考えていたことが文章を通して変わってしま…

珍獣

花粉症なのにベンツがきちゃったよ (平岡直子「照らしてあげて」、『ウマとヒマワリ3』、ネットプリント、2018年) じゃあしかたない。かつてはどうか知らないが、ベンツは現在ではほとんど無害な見世物?のような単語と感じる。いまさら誰もカメラで撮ろう…

ふきさらし

償い以前の花束ならばそこに置いて (石田柊馬編『本間美千子川柳集』、2005年。pdf版 https://weekly-web-kukai.com/ryushi-archive/ ) 花束: 愛されていた証/愛していた証。 その価値は低く 石と同じように零れていきます。 (ひらにょん「らじおぞんで…

遇する

放火魔はぼくかもしれず「ねえ、鏡」 (なかはられいこ『脱衣場のアリス』、北冬舎、2001年。pdf版 https://weekly-web-kukai.com/ryushi-archive/ ) 鏡はすきだ。文字になった鏡はすきだ。文字になってない鏡の相手は正直してられない。嫌いというより。努…

行列

聖書閉づさあ死ぬ人と殺す人 (寺尾俊平『獅子の懐』、新葉館出版、2001年) 川柳は「さあ」が言える。言い方が悪いかも知れない。じゃあどう言ったらいいだろうかと考えあるいは、そのふりをする。時間を稼いでいる訳だ。「後ろから指される指はエンジンだ…

ミステリと言うミステリー

死亡推定時間は鶴ということに (堺利彦監修『川柳ベストコレクション 石部明の川柳と挑発』、新葉館出版、2019年) この作品を参照するための資料は手元にとりあえずふたつある。一冊はこの本。もうひとつは川柳誌『バックストローク』創刊号での同人雑詠欄…

西瓜と赤身

親と子に割り込む長い剣の列 (倉本朝世「翁の家」、『MANO』創刊号) 黒一色のくさむらの影から向こうを窺っているという表現が影絵の世界でしか成り立たないのも判っている。不揃いな草はひとの視野のまわりでどうしたって立体的に揺れたり、音をだし、光…

景気

紅い蝶々舞踏1.2.3.4.5.6.7.──(帝王切開) (木村半文銭『はじめまして現代川柳』) テレビはやたらカウントダウンが多かった。大晦日からお正月に入る瞬間でさえ、テレビのいっそ健気な献身なくてはどうしてこれほどひとびとに意識されるものになっただろ…